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2011/10/7 見通せぬメコンの波立ち
▼ 見通せぬメコンの波立ち
先々月のカントーの町の紹介の中でも申し上げた通り、メコン川は東南アジア有数の大河です。中国から発してミャンマー、ラオス、タイ、カンボジアの各国を潤し、ベトナムで河口に至ります。この大河の流域で最近問題になったのは、ラオスが旧都ルアンプラバンの下流、サイアブリで水力発電ダムの建設を計画したことに始まる一連の問題です。サイゴンタイムスが掲載した記事から、その問題の内容を紹介することにしましょう。

<メコン川の遠景>
現在すでにメコンの流域で、12のダム建設が計画、ないしは完成されています。去る7月22日にカントー市で開かれたセミナーで、サイアブリ・ダムに反対する強硬意見が出ました。理由は環境に与える影響が極めて深刻だということです。しかし、問題はすでに計画ないし建設されている多くのダムをどうするかということです。これに対する納得のいく解決がないと、ラオスとしてもあっさり引き下がるわけには行きません。
河川に水力発電プロジェクトが実施されると、ダム近辺の水流には大きな変化を生じます。これらのダムが完成すれば、およそ2,000MWの電力が生まれ、周辺に供給されることになるでしょう。
その反面、ダムの稼働によって水底の沈泥や地形は大きく変化し、水中の生物は生息の環境を乱されます。第一、魚類は水中の移動がままにならないということです。
乾季には水流の100%近くがダムにとどまります。雨季には50―60%の水がダムを通過します。いわば水流の動きを大きく妨げることになるわけです。
もし水流が1993年の渇水時と同様の水位低下を来せば、問題のサイアブリ・ダム下流のカンボジアやメコンデルタには水の供給が深刻な不足を招く結果となります。これまではカンボジアのトンレサップ湖が自然の水量調整池の役割を果たしてきました。現地を訪れたことのある人は良くご存じですが、雨季と乾季とでは湖の水位、沿岸の地形は想像を超えるほど大きく変化します。

<地図>
メコンの水底には、栄養分を含んだ膨大な沈泥の層があります。一たびダムが出来ればその上流の沈泥は移動することができず、次々に浅瀬が生じることになります。一方下流では、川の堤防に沿って浸食作用が生じます。川が大きいだけに、移動する沈泥の量も驚くほど大きいのです。
カンボジアのクラチエでの観測から推定されるところによると、通常1年間に16500万トンの沈泥が移動しますが、サイアブリで水流が締め切られるとこれが4分の1、4200万トンにまで落ちてしまいます。こうなると、流れに乗った土壌の移動、水中の生物への栄養分の補給はガタ落ちです。栄養分の量も同じく4分の1に減ってしまいます。土壌が移動しなければ、下流の深刻な浸食作用も頷けるところです。メコンデルタでは川の両側の堤防への浸食だけでなく、南シナ海沿岸での水流減により、塩水の遡上、つまり農地への塩分の侵入=塩害の増加は計り知れません。こうしてダムの締め切りによる下流への影響は、マングローブ林の形成なども含め、農業、漁業、関連産業にまことに深刻な影響を及ぼすわけです。
大きな発電所が出来れば、それに応じて自然環境に変化が生じます。貯水池の出現、ダム建設のための道路、送電システムなどにより、膨大な森林が消え、農地が消えていきます。川の水位が変化するために、これまであった堤防は役に立たなくなります。現段階の推定では、ミャンマー、タイ、ラオスの3角地帯付近からカンボジアのクラチエ辺りまで、およそ45万世帯が生活の根拠としていた土地を失うと見込まれています。
メコン川流域の住民にとって、もう一つ大きいのは川の恵みともいえる漁業=重要な蛋白源への影響です。世界的な生態系の豊かさで知られるラオスのシファンドン、カンボジア・ストゥントレン付近のラムサールはともにその面影を失うでしょう。
メコン川に棲む魚類の35%は、再生のために移動、回遊を必要とします。当然ながら、ダムが出来ればこの動きは制限されます。ダムの中にはフィッシュ・ラダー=魚道を設けて問題を解決しようというアイデアもあるようですが、ヨーロッパ的なテクノロジーは大型の強い魚類には適するとしても、メコン川に棲む雑多な小型の魚類には適さないという意見が大勢を占めています。なにしろメコン川の魚類の種類は1,200種にも及ぶのですから。
メコン川にダムが出現したとして、2030年までに淡水魚の損失は55万トンから88万トンにも及ぶと考えられます。海産物への依存が少ないラオス、カンボジア両国では、蛋白質の補給源は深刻な打撃を受けるでしょう。ダム建設の当初には魚類の出現は一時的に増加するそうですが、2,3年もすれば生産量は10分の1にまで減ってしまうそうです。もちろん、ベトナムでもメコンの水量の劇的な変化が出現すれば、養殖産業は打撃を受けることに変わりはありません。

<魚・稲刈り>
インドシナ半島でメコン川流域に住む人は3,000万人近いと見られます。これらの人たちにダム建設がどの様な影響を及ぼすかを概観してきました。もちろん、ダムが出来、電力源が開発されれば、両国の国民にとって大きな利益となるでしょう。国家の収入が少ないラオスなどでは、もともとダム建設による電力生産増で電力を輸出する計画も立てられてきたはずです。
メコン川のダム建設によるプラスとマイナス。電化によって多くの国民の生活水準は向上するでしょう。しかしもう一方で、この記事で紹介してきたように、流域住民の生活基盤が大きく崩される恐れも無視できません。
メコン川が国際河川であるだけに、複数の国の利害がどの様に反映されるのか、最上流の中国の動きはどうなのか。サイアブリ・ダムの建設は結論を先送りして、ひとまず落ち着いていますが、その先の見通しはまだついていません。(この記事の中心的部分は、2011年8月13日付けサイゴンタイムズに拠りました。)
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