▼『ベトナム経済関係法規集(上・下)』
▼『日越経済交流ニュース』
▼電話でのお問い合わせ
TEL: 06-6359-5071
平日 10:00~17:00
Photo by Vietnam Airlines.
2010/6/10 ダラトの名曲喫茶 “カフェ トゥン”
▼ ダラトの名曲喫茶“カフェ トゥン”
ベトナム観光が気に入った方に伺いますが、中部高原の避暑地ダラトを訪れたことはありませんか。有名な観光地、避暑地でもあるダラトは中部高原ラムドン省の省都でもあり、海抜1,400-1,500メートルの丘陵地にあります。高原野菜、果実の栽培地、バラ、ジャスミンなどの花の産地としても知られています。
坂の町:ダラトは多くの観光ツアーのコースに入っていますが、せいぜい1,2泊の日程ではこの町の良さは汲み尽くせないかもしれません。
今月お話しするのは、サイゴンタイムズ誌が紹介するこの町に長く続く喫茶店の物語。駆け足の旅ではなく、一人避暑地の時の移り行きを楽しむ際の資料とお考えください。
フランス人がダラトを発見し、開発した時、“コーヒー文化”と言えるものも一緒に持ち込まれました。ダラトの坂道に沿って数多くの喫茶店があるのを訪れた人々は知りますが、カフェ・トゥン(Cafe Tung)はそれほど目立たない店ながら、地元の人にはよく知られ、愛されている店でもあります。
もう50年も続いているカフェ・トゥンは、ダラトの町の移り行きを見守ってきましたが、店自体はたたずまいが変わったわけではありません。ホアビン広場の一角にありながら、喧しい市場からは少し離れ、50年前とほとんど変わらない印象です。
カフェ・トゥンの第一印象は、穏やかでクラシックな雰囲気。それほど広くない店内は、2列の木製テーブルが並んだスペースともう少し広いコーナーに分かれ、ビニール貼りの椅子に落ち着いた客をピカソの模写が見下ろし、クラシック音楽が流れています。リラックスという言葉が具体化したような店内です。
カフェ・トゥンの最初のオーナーは、もう2001年に亡くなったチャン・ディン・トゥン(Tran Dinh Tung)という人。今はその子供たちの代に引き継がれています。トゥンさんの子供は全部で11人。経営者は次男になる人ですが、店の歴史をよく知っているのはさらにその弟のトゥン(Thung)さんでした。
チャン・ディン・トゥンさんと奥さんのレ・ティ・ザックさんは、1959年にゴックラン映画館のそばに売店をかまえ、やがてホアビン広場の一角に喫茶店を開業したのです。今はどの売店も喫茶店に変わってきましたが、その中でもカフェ・トゥンは少し高踏的と言いましょうか。お客の大部分はインテリ、芸術家だったということで、この傾向は今でも変わっていません。
それと言うのも、初代オーナーのトゥンさんは芸術家肌、凝り性で、コーヒー豆の選び方と店内を流れる音楽の選曲についてはたいへんうるさかったと言います。トゥンさんはコーヒー豆の熟れ具合までチェックし、2年間保存して、フランス製バターとラム酒で味付けしたあと、やっと焙煎したと言います。こんなに手間をかけるので、店は大いに儲かるとまではいかなかったそうです。
音楽についてもそうです。トゥンさんのお気に入りは1960-1970年代のポピュラーミュージックで、フランスのクリストフやアダモ、イギリスのビートルズ、ローリングストーンズなどが店内を流れていました。トゥンさんはわざわざフランスからレコード盤を直接取り寄せていたそうです。
1975年4月にカフェ・トゥンは2,3年店を閉じました。再開するようになった時、店は模様替えされて協同組合のオフィスになっていたということです。1980年に、カフェ・トゥンの名前も復活し、以前の常連客が戻ってきました。昔ながらの香りが漂う店になって、コーヒーの味も変わっていなかったそうです。
お客に人気のあった音楽はチン・コン・ソンやゴー・トゥイ・ミエンの唄。それにクラシックの合奏曲や交響曲だったといいます。カフェ・トゥンは今でも昔の音楽を流しますが、以前の蓄音機と違って今はCDを使ってのことです。
チン・コン・ソンといえば今春、残念ながらホーチミン市で死去しましたが、ベトナム南部では国民的な作詞・作曲家として知られています。ソンはダラトに滞在中、よくこの店に出入りしたそうで、ソンの生前を記した文章には、カフェ・トゥンの名も登場するそうです。それというのも、ソンはダラトで音楽を教えていたので、この店に出入りする機会も多かったのでしょう。
店にくると、お気に入りの座席も決まっていたそうです。カウンターの向かいのイスは指定席でした。チン・コン・ソンとコンビを組んでいた歌手 カイン・リーも同じくこの店に出入りし、まだ売れなかったころに、よく二人は店内で話し合っていたと言います。チン・コン・ソンとカイン・リーだけでなく、著名な芸術家たち、画家のディン・クオンやニュウ・イ、写真家のリー・ホアン・ロン、彫刻家のファム・バン・ハンなども、この店でよく見かけられます。それほどこの店は、あるいはこの町は、芸術家たちの溜まり場になっているということでしょうか。
以前には、コーヒー好きのダラトの人々は、カフェ・トゥンをおしゃべりの場所、友人との話し合いの場として利用していました。そこには何か魂を寛がせる空気があったわけです。今でも贔屓客たちは、忙しく過ぎていく時間を取り戻そうとするかのように、この店の古ぼけた椅子、過ぎ去った日の音楽を求めてこの店を訪れ、何もかもが変わらないままの雰囲気を楽しんでいます。店の給仕役はみな身内の人ばかり。気さくでありながら丁寧な応対で店の格を保ちます。
始めに申し上げた“コーヒー文化”のスペースがこの店にあります。カフェ・トゥンが流行るのは、多分そのコーヒー文化のせいでしょう。コーヒーが好きで、ダラトの町が好きな人たちにとって、この店は何よりお気に入りの場所であるのです。
考えてみれば、ハノイやホーチミン市にもカフェ・トゥンによく似た店があるのかもしれません。旅人にはそんな寛ぎの暇もなく、名所旧跡を訪れるのに忙しいのですが、それでも見知らぬ土地で、ゆったりとした時間を過ごすのは悪いことではないでしょう。特にダラトを推奨するのは、ありがたいことにこの町では涼しさと穏やかさに満ちた空気が流れているからです。サイゴンタイムズの紹介記事が「ノスタルジック・ランデブー」と題されているのは、ピッタリの題名かもしれませんね。
(サイゴンタイムズ 4/17)
バックナンバーはこちら→


